大型の航空宇宙構造開発で、シミュレーション、3Dプリンティング、鋳造の相乗効果を発揮
積層造形(通称3Dプリンティング)は今、ますます注目を集めています。とりわけ高い関心を示しているのが、軽量化とそれによる省燃費を大きな目標として掲げる航空宇宙産業です。荷重に応じた柔軟な形状を作成できる積層造形は、大きな可能性を秘めた技術です。質量と部品数の削減、構造物の機能統合によって軽量化を達成することで、開発期間の短縮をはじめ数多くのメリットが得られます。しかし、積層造形は航空宇宙産業では比較的新しい技術であるため、多くの検査や性能検証をクリアしなければなりません。また、3Dプリンターは限られた大きさのものしか製造できないことから、航空機の大型コンポーネント(エンジンパイロンやアクセスドアなど)には適しません。
3Dプリンティングのネックが寸法であることは明らかです。航空機のドアはかなりの大きさがありますが、作りが複雑で機能統合の可能性を秘めていることから、ワンショット製造による絶大なコスト削減効果が期待できます。
このプロジェクトでは、Sogeclair aerospace社のエンジニアがこの問題の解決策を検討し、積層造形と鋳造を組み合わせた開発プロセスを考案しました。どちらも、航空機のドアの開発と製造に適した技術です。鋳造は5000年以上の歴史を誇る、十分に確立された技術であり、積層造形も設計の自由度においては現行の他の技術の追随を許しません。これらの手法の可能性を最大限に引き出すために、ドアの設計と最適化にはAltair HyperWorksソフトウェア製品群が使用されました。
SOGECLAIRグループ傘下のSOGECLAIR aerospace社は、航空宇宙産業の主要なエンジニアリングパートナーとして、一次請け事業を行っています。構成の管理、航空機の構造、システムの設置、航空機の内装、製造エンジニアリングおよび装置のコンサルタントとマネジメントサービスを提供しており、事業の幅は研究開発から製品供給にまで及びます。加えて、自身の子会社や合弁会社(AviaComp社、ADM社、MSB社、PrintSky社など)を通じて生産サービスも提供しています。これまでに製造したコンポーネントには、CFRPを使用した燃料タンク用アクセスドア(Airbus A350およびBombardier Cシリーズ向け)や、金属製床構造(Airbus A380およびビジネスジェット機のキャビン内装向け)などがあります。
Sogeclair社におけるシミュレーションの活用
Sogeclair社は長年のAltairユーザーで、Altair HyperWorksを駆使してシミュレーションおよび開発作業に取り組んでいます。Altairの各種ツールを定期的に使用するのは20人ほどで、航空機のドアの開発を担うイノベーション部門もその一つです。
Sogeclair社のエンジニアは様々なAltair HyperWorksツールを使っていますが、使用機会が特に多いのはFEAソルバー兼最適化ツールであるAltair OptiStructと、プリ / ポストプロセスで活躍するAltair HyperMeshおよびAltair HyperViewです。
OptiStructは、解の収束性の良い最適化をセットアップできる独特の機能を備えていることから、FEAソルバー兼最適化ツールとして重宝されています。さらに設計者は、ジェネレーティブデザイン、トポロジー最適化、高速シミュレーションを可能にするAltair InspireTMも活用しています。使いやすいうえに、特に初期設計段階で不可欠な機能が揃っていることがその理由です。Sogeclair社はすべてのAltairツールを、Altairの柔軟なユニットベースのライセンスシステムを通じて使用しています。
“風の神”に挑む – シミュレーション、3Dプリンティング、鋳造で“ワンショット”製造を実現
研究対象に選ばれたのは、航空機の点検・保守時に作業員が使用する、胴体先端部のEbayアクセスドアです。
このEbayアクセスドアは様々な面で格好の研究材料でした。厄介なエンジニアリング上の問題がいくつも存在したのです。まず、アクセスドアはDMLS(直接金属レーザー焼結法)で製造するには大きすぎました(約800mm x 500mm x 250mm)。使用材料のAS7G06アルミニウムも、航空学ではまだ検証が済んでいません。そのうえ、寸法・形状公差がきわめて厳しい非常に薄い部位も含まれていました。
ギリシャ神話の風の神にちなんでEOLE(“アイオロス”)と名付けられたこのプロジェクトは、航空機のアクセスドアへのインベストメント鋳造の応用研究です。
製造プロセスの柱は、3Dプリント樹脂パターンを利用したインベストメント鋳造です。EOLEプロジェクトはSOGECLAIR aerospace社が主導し、CTIF社、Ventana社、voxeljet社も協力企業として参加しました。voxeljet社は、プラスチックと鋳物砂を用いる結合剤噴射(バインダージェット)式の産業用3Dプリンティングシステムの大手メーカーです。
このプロジェクトで取り組んだ主な技術上の問題は、薄板と有機的な形状の補強材を統合し、航空機のアクセスドア(クラス2F部品)を“ワンショット”かつニアネットシェイプで製造することでした。それが実現可能であることを示すために、エンジニアチームは体系的なロードマップに沿って研究を進め、プロジェクトの全要件を確実に満たせるようにしました。
最適化スタディは2か月に及び、トポロジー最適化を8回、機械的応力チェックを4回実施して満足の行く設計を作り上げました。
エンジニアチームは多くの課題に直面しましたが、なかでも際立って重要だったものが2つあります。まず、鋳造する薄板を、実現可能な最小板厚にしなければなりませんでした。これがなぜ重要かと言えば、ドアの外表面は胴体の一部と見なされるため、非常に厳しい寸法・形状公差を満たす必要があるのです。アクセスドアでもう1つ厄介なのが、薄板と補強材の接合部です。
これに対処するために、SOGECLAIR aerospace社はいくつかの設計案をスケッチし、それを基にCADモデルの作成やその後のプロセスシミュレーションを行いました。
プロジェクトの冒頭、設計プロセスのコンセプト開発段階ではトポロジー最適化を使用して、定義した設計空間内(主な制約の1つ)の材料レイアウトを最適化しました。その後、有限要素解析を実行して、最適化後の形状を詳しく調べました。
次は鋳造シミュレーションです。部分凝固シミュレーションを重点的に行い、設計品質を向上するだけでなく、引け巣や亀裂などの欠陥を最小限に抑えることができました。
さらに、湯まわり不良や気泡など特定の欠陥の位置と大きさを正確に予測するために、湯流れ・凝固シミュレーションを実施しました。その後、アクセスドアの代表的な領域(厚い部分など)について実現可能性サンプルを製作しました。これらのサンプルができたところでようやく実寸大のアクセスドアを製造し、PMMA樹脂を使って結合剤噴射式の3Dプリンティングを実施しました。
次は鋳造プロセスです。この樹脂を粘土泥漿に浸し、何層もの鋳物砂でコーティングして鋳型を作ります。そして鋳型を熱して樹脂を取り除きます。最後にアクセスドアを鋳造し、鋳型から外してから熱処理を行って完成です。完成した最適形状のアクセスドアは、寸法が正しいのはもちろんのこと、プロジェクトの重要な要件をすべて満たすものでした。