Texas Instruments社

solidThinking Embedを利用した、センサーレスモーター制御技術の特性評価

システムレベルのシミュレーション

近年、パワーエレクトロニクスおよびマイクロエレクトロニクス産業では、電動システムやモーター制御技術の応用範囲が新たな局面を迎え、こうしたテクノロジーは、トランジスター、コンデンサー、洗濯機、空調機器、エレベーター、自動車、モノレール、遠心分離器など、現代の生活のほぼすべての道具に組み込まれるようになっています。今日のマイクロコントローラーユニット(MCU)は、自動車の制御システムにとどまらず、洗濯機、冷蔵庫、HVAC(暖房・換気・空調システム)といった、送風機やコンプレッサーを搭載した装置に至るまで、多種多様な用途で高精度化・高効率化・低コスト化を実現しています。

TI社のInstaSPINは、三相、可変速度、センサレス、同期、非同期などのあらゆるモーター制御システムを識別し、チューニングして、完全に制御することができます。このソフトウェアには、TI社の新しいソフトウェアエンコーダーである、センサレスオブザーバーのFAST™(フラックス、角度、速度、トルクの略)が使用されています。FASTはPiccolo装置の読み出し専用メモリ(ROM)に組み込まれています。

C2000部門のSenior Motor Systems EngineerであるDave Wilson氏は、FAST™オブザーバーの特性評価とデータシートの作成を行うプロジェクトを任されました。そこで、制御用の回路基板を取り付けた動力計(ダイノ)システムをセットアップして、作業を進めてみることにしました。FAST™オブザーバーの特性評価をするために、ゲイン誤差とオフセット誤差を発生させ、FASTの性能を観察するという手法を取ろうとしたのです。しかし、ここで問題が浮上しました。時間の経過や温度の変化とともに出力値が変動するため、作業がスムーズに進まずに時間がかかるほか、ことあるごとに較正する必要がありました。さらに、動力計は回転軸のトルクしか測定できず、FASTオブザーバーで算出される電磁トルクは測定できませんでした。つまり、使用したハードウェアにFASTを試験するための機能が十分に備わっていなかったために、FASTを正しく評価できなかったのです。

「このプロジェクトでEmbedを使う上での大きなメリットとなったのは、コード生成機能と、その驚くほど高速な動作です。さらに、ドライバーの動作とROMコードとのダイレクトインターフェースのスピードは、今回の成功の鍵を握りました。このプロジェクトに関していえば、それが最も重要なメリットでした」

DaveWilson
Senior Motor Systems Engineer,C2000Group,TexasInstruments

シミュレーションプロセスでのEMBED-システム全体のEMBEDシミュレーションの開発


Wilson氏がはじめてEmbedのことを知ったのは、4年前にWeb上でのプレゼンテーションを見たときのことです。その使い勝手の良さをふと思い出し、今回のプロジェクトに使ってみることにしました。Embedにより、モーターの高速かつ精確なアナログ動的挙動とデジタル制御をモデリングするために必要なツールが手に入りました。その後Embedで、グラフィカルなダイアグラムの制御部から自動的にCコードを生成し、そのコードをターゲットのPiccoloにダウンロードしました。Embed JTAG Hotlinkの新しい同期モードを使って、Wilson氏はモーターシミュレーションとターゲット上の制御を非リアルタイムに同期させ、FASTの出力とEmbedモデルのフラックス・角度・速度・トルクの理想値を比較検証することができました。その結果、ターゲット上のROMで実行しているFASTオブザーバーにシミュレーション電圧と現在値を与えるだけで、どんなに大型または小型のブラシレスモーターに関してもFASTの特性を評価できるようになったのです。

Wilson氏が開発したのは、FAST™部分のコードを除くシステム全体を含むEmbedシミュレーションで、必要に応じてフィードバックパスでFASTオブザーバーをバイパスしたり、ターゲット上のFASTオブザーバーを経由する制御ループを閉じたりできました。また、ゲインとオフセットの値を自在に設定できるようになったほか、抵抗、インダクタンス、コントローラーのゲイン、電圧公差といった、さまざまなパラメーターも制御できるようになりました。「まったく同じ条件下で、ROM上のFAST™オブザーバーの出力値がどうなるかを把握し、シミュレーションで得た理想値と比較することができました。要するに、Embedは私が直面していた問題を完全に解決してくれたのです」と、Wilson氏は語ります。

「このプロジェクトでEmbedを使う上での大きなメリットとなったのは、コード生成機能と、その驚くほど高速な動作です。さらに、ドライバーの動作とROMコードとのダイレクトインターフェースのスピードは、今回の成功の鍵を握りました。このプロジェクトに関していえば、それが最も重要なメリットでした」。

ターゲットのインターフェースを表現した、Exercizorのブロックダイアグラム

Exercizorを用いた、FASTのパラメーター感度試験

磁界方向制御のEmbedへの実装

メリットと成果 - FAST™ TRMの生成


Embedを活用したソリューションにより、FAST™のTRM(テクニカルリファレンスマニュアル)を作成できただけでなく、結果として非常に便利なツールが完成しました。このツールを使用することで、TI社の顧客は、TI社の実際のROMに基づくアルゴリズムを用いて自社のモーター制御要件を試験することができます。いままではモーターシステムの実機を接続しなければ実現できなかったことです。これにより、InstaSPIN™ FOC(磁界方向制御)のためにシステム全体を構築することなく、InstaSPIN™ FOCをすばやく試せるようになりました。

About Texas Instruments社

Texas Instruments(TI)社は、売上高130億ドルを誇る、世界的な半導体設計・製造企業です。TI社のC2000 MCUグループは、最高のデジタル信号処理(DSP)技術と最高のマイクロプロセッサーを統合し、究極の組み込み制御ソリューションを作り上げています。C2000は、モーターのセンサレス磁界方向制御といったハイエンドのプロセッサー用途が主なターゲットです。

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